7月1日のNYT記事で「金融大手がウォール街の外に職を移行中」という記事に、今後のアメリカの経済や不動産地域戦略を考える上で非常に重要な事実や傾向が羅列されていましたので紹介します。
Financial Giants Are Moving Jobs Off Wall Street http://nyti.ms/OwrsAh
まず、表題のNear-Shoringですが、いわゆる海外に職を移すOff-Shoringから派生した造語で、「コストの高い都市圏や地域から、コストの低い都市圏や地域に雇用をアウトソーシング(移行)する」というトレンドです。
アメリカでは海外(オフショア)へのアウトソーシングが盛んで、延べ人数は、2000年10万人→05年59万人→10年159万人→15年332万人と継続的に増加の予測です。職別では2010年の段階で事務職79万人>IT28万>ビジネス16万>管理職12万人>セールス10万>建築8万人となっています。 http://bit.ly/Akq5i3
いわゆるアウトソーシングはインド、フィリピン等の英語圏の海外の国への職の移行でしたが、Near-Shoringは、はその米国内での移行です。具体的には、NYやCA州等の高税、高オフィス賃料、人件費に嫌気がさした企業が、コアの高給職はコストの高い地域に置きながら、中間層向けの人事、トレーディング、会計、コンプライアンス部門等を、人件費の低いTX、UT、NC州へ移行するという流れです。
この傾向は金融危機後に加速しているようで、実際、NY州の金融職は07年21.3万人が、金融危機後に15%減、その後1.2万人増えたが、ピークより2.2万人少ない状況です。Near-Shoringの受け皿であるAZ州やDE州では各々2600人・1300人の増加しています。企業別では以下の通りです。
- RBS:人事をSLCに移管・給与は10→6万ドル 。
- ドイツ銀行:NY州雇用7400→6900人・FL州JV600→1000人。
- クレディ・スイス:NY都市圏雇用は500人減・NY州ローリーでの雇用は450人増。NYメロン:NY350人減・FL150人増
また、Near-Shoringは米国内だけの問題ではありません。昨日のゴールドマン・サックスの投資家向けのプレゼンテーションでは、世界都市圏別雇用戦略に触れており(スライド15 http://bit.ly/O8PygP) 、NY、ロンドン、東京、香港等の高人件費地域よりも、人件費が4-7割低いバンガロール、SLC、ダラス、シンガポール等の高付加価値地域の人員を増やす。これらの高付加価値地域のGSの雇用に占める割合は現在19%だが、新規雇用の1/3を占めるようになっているとの事です。
Near-Shoringが金融業界だけで起きているわけではありません。シリコンバレーの中付加価値職がOR州やTX州の都市に移行しているのも同じ傾向で、今後確実に拡大傾向ですね。職の数だと中間向けが上位向けより多いので、コストの高いNYCやSF市等の都市圏では切実な問題です。
Near-Shoringを加速させるのは、コストのやすい各州が税制優遇を企業に提供して、雇用の増加に躍起になっているからです。具体例としては:
- NC州:クレディ・スイスに$4M。
- DE州:JPMCの1200職のリロケに$10.1M。http://nyti.ms/N8voCs
- TX州:アップルの3600職追加雇用に$21M。
Near-Shoringの動きは、この10年位の傾向で、00年→08年の州別人口移動(移民除く)を見ると、生活コストが高いNY州154万人、CA州から136万人が他州へ引越ししています。 受け皿州は生活費が安く、中間層向けの職が多いFL125万人>TX70万人>AZ70万人>NC58万人等です。 http://bit.ly/krKNIg 2010→2011年米州別人口減(移民除く)をみても http://bit.ly/tftBwL NY11.3万減、IL7.9万減、CA6.6万減、MI5.7万減、NJ5.4万減。増加州は、TX15万人>FL12万人>NC4万人>WA3.2万人。NY→FL・NC、CA→TX・WAで、勝ち組・負け組州が明らかですね。
僕がテキサス州のオースティンへの不動産投資を続けているのも、Near-Shoringでオースティンに人と職の急速に急速な移行が続いているからです。
オースティンの経済・不動産関連データのまとめ http://bit.ly/H7nBpC
このトレンドは、アメリカ不動産投資の地域戦略には非常に重要です。
では、Happy Investing!!!!